犬の血清シスタチンCの有用性と臨床応用について

岩佐 直樹

羽島動物病院勤務
岐阜大学応用生物学部獣医内科学研究室 研究生

【どうぶつ検査センターから】
 健康診断を実施する上で重要な目的に疾患の早期発見、早期治療介入があげられると思います。
今回、腎疾患の早期発見、早期治療介入の一助となる2つの論文¹'²の著者である岩佐先生に、犬の腎機能マーカーである血清シスタチンC (Cys-C)の有用性と結果解釈について解説して頂きます。



Point

● 血清Cys-Cは血清クレアチニン以上に人医療で腎機能マーカーとして広く利用されている
● 犬の血清Cys-Cでは15 kg以下で有用な腎機能マーカーとして報告されている
● 血清Cys-C高値群(> 0.55 mg/dL)は低値群と比較して腎疾患特異的生存期間が短い
● 血清Cys-C濃度が高値(> 0.55 mg/dL)の場合は定期的にモニタリングを行い、慢性腎臓病に関する異常があれば早期の治療介入した方が生存期間は延長する可能性がある

 

【概要】
 医学領域では血清Cys-Cは幅広く活用され、慢性腎臓病のガイドラインに指定されている。一方、犬では血清Cys-C濃度は糸球体濾過量(Glomerular Filtration Rate:GFR)のバイオマーカーとして知られており³'⁴、体重15  kg以下に限定すれば、血清Cre濃度よりもGFR低下の検出に有用であると報告されている⁵。
 筆者は健康診断における無症状の犬15 kg以下において、腎疾患特異的死亡の予測判定に対して血清Cys-Cは高い精度を示すことを報告した(表1)。また、血清Cys-C が0.55 mg/dLを越えた場合の予後(腎疾患特異的死亡率)は悪くなるが (図1)¹、その場合でも定期モニタリングすることで早期治療介入により、生存期間が延長する可能性があることを報告した(図2)²。これらの結果から、無症状であったとしても健康診断時に血清Cys-Cを評価することは有益性が高いのではないかと考えている。


表1. 腎疾患特異的死亡の予測判定に対する血清BUN、血清Cre、血清Cys-Cの感度および特異度( n = 140 )

 

1. 腎疾患特異的生存率に関するカプランマイヤー曲線(Cys-C高値群 vs Cys-C低値群) 

無症状の犬(15 kg以下)において、Cys-C高値群( n = 8 )はCys-C低値群( n = 132 )と比較して腎疾患特異的生存期間は有意に短い( p < 0.01 )。


2. 生存率に関するカプランマイヤー曲線(モニタリング群 vs 非モニタリング群)

無症状にかかわらずCys-Cが高値であった犬(15 kg以下)において、非モニタリング( n = 5)群はモニタリング群( n = 5 )と比較して生存期間が有意に短い( p < 0.01 )。

 

【ピットフォール】
 血清Cys-Cが高いことを理由に何らかの治療を開始することは避けるべきである。カットオフ値を0.55 mg/dlとした場合、特異度(99%)が感度(89%)に比べて低いといった検査特性がある。そのため、有病率の低い無症状の犬の健康診断においては、カットオフ値を上回っても偽陽性の可能性を必ず考慮しなければならない。また、血清Cys-Cが増加している場合は主にGFR低下が原因と考えられるが、ステロイドホルモンや年齢などの腎外作用の影響を受けている可能性があるため結果の解釈には注意が必要である⁶。

 

【引用文献】

  1. Iwasa N et al. Serum cystatin C concentration measured routinely is a prognostic marker for renal disease in dogs. Res Vet Sci. 119: 122-126 (2018) PMID: 29913326
  2. Iwasa N et al. Evaluation of monitoring methods in asymptomatic dogs with high serum cystatin C concentrations. J Vet Med Sci. 81: 1730-1734 (2019) PMID: 31611483
  3. Almy FS et al. Evaluation of cystatin C as an endogenous marker of glomerular filtration rate in dogs. J Vet Intern Med. 16: 45-51 (2002) PMID: 11822803
  4. Ghys L et al. Cystatin C: a new renal marker and its potential use in small animal medicine. J Vet Intern Med. 28: 1152-64 (2014) PMID: 24814357
  5. Miyagawa Y et al. Evaluation of the measurement of serum cystatin C by an enzyme-linked immunosorbent assay for humans as a marker of the glomerular filtration rate in dogs. J Vet Med Sci. 71: 1169-76 (2009) PMID: 19801896
  6. Muñoz J et al. Effects of Oral Prednisone Administration on Serum Cystatin C in Dogs. J Vet Intern Med.31: 1765-1770 (2017) PMID: 28921665