尿メタネフリン分画による犬の褐色細胞腫の診断

西飯 直仁

岐阜大学 応用生物科学部 獣医内科学研究室 准教授
名古屋ベテリナリーコンサルテーション アドバイザー

【どうぶつ検査センターから】

 副腎腫瘍のひとつである褐色細胞腫は、診断が難しいとされており、血液や尿で安全に診断や鑑別が可能になることが期待されています。
 今回は、岐阜大学の西飯先生に、尿中メタネフリン分画による犬の褐色細胞腫診断の有用性について書かれた以下の論文を解説して頂きます。
 なお、本紹介論文と同じ測定法である尿中メタネフリン2分画は、弊社にて受託可能ですが、参考基準値については現在作成中です(2022年7月現在)。

 

【紹介の目的】
 褐色細胞腫は、犬でみられる副腎腫瘍のひとつである。強い浸潤性を有し、治療のためには早期の外科的切除が重要であるが、臨床症状が非特異的であることから、臨床診断が難しい。細胞診は、褐色細胞腫の診断に役立つが、カテコラミンの放出による血圧変動や出血によるリスクもある。血液や尿を用いた検査によって褐色細胞腫を診断することができれば、より安全に褐色細胞腫を術前診断することができる。本稿では、カテコラミンおよびその代謝物による犬の褐色細胞腫の診断について検討し、さらに血液と尿サンプルでの診断成績を比較した研究について紹介する。

 

紹介論文

褐色細胞腫、副腎皮質機能亢進症、非副腎疾患および健康な犬における尿および血漿中のカテコラミンとメタネフリン分画

Salesov E et al. Urinary and Plasma Catecholamines and Metanephrines in Dogs with Pheochromocytoma, Hypercortisolism, Nonadrenal Disease and in Healthy Dogs. J Vet Intern Med 29: 597-602 (2015) PMID: 25818214

 

背景:褐色細胞腫(PC)は、臨床兆候、副腎腫瘤、そして血漿および尿中カテコラミン代謝物にもとづいて診断し、最終的には組織学的に確定診断する。人医学では、尿と血液を用いた生化学的検査のいずれが優れているかについては議論がある。

目的:健康な犬、PC、副腎皮質機能亢進症(HC)、非副腎疾患(NAD)、の犬において尿および血漿中のカテコラミンとメタネフリン分画を測定し、どれが褐色細胞腫の診断に最も有用であるか調べることである。

 動物:PCの犬7例、HCの犬10例、NADの犬14例および健康な犬10例。

 研究デザイン:診断に関する前向き臨床研究。

方法:尿およびヘパリン血漿を採取し、測定まで-80℃で保存した。測定には高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、電気化学検出器またはタンデム質量分析計を用いて検出した。尿中濃度は、尿中クレアチニン濃度との比で表した。

 結果:PCの犬では、尿中ノルメタネフリン/クレアチニン比、尿中メタネフリン/クレアチニン比、血漿総ノルメタネフリン、血漿遊離ノルメタネフリン、血漿遊離メタネフリン濃度が他の3群よりも有意に高かった。PCの犬では、尿中ノルメタネフリン濃度が他の群と同等の値を示した個体はなかった。血漿ノルメタネフリン濃度は、褐色細胞腫の犬のうち1例において、副腎皮質機能亢進症や非副腎疾患の犬と同等の値であった。尿および血漿の両方において、エピネフリンおよびノルエピネフリン濃度は群間での重なりが大きかった。

1. 褐色細胞腫(PCn = 7)、副腎皮質機能亢進症(HCn10)、非副腎疾患(NADn14)、および 健康な犬(n = 10)における尿中ノルメタネフリン/クレアチニン(Cre)比。横棒は中央値を表す。



 

 



1. 褐色細胞腫(PC)、副腎皮質機能亢進症(HC)、非副腎疾患(NAD)、および 健康な犬における尿中メタネフリン/クレアチニン比、尿中メタネフリン/クレアチニン比、血漿総ノルメタネフリンおよび血漿総メタネフリンの範囲と中央値。
a、bcと異なる文字の群間では統計学的有意差がある。(p < 0.05 

結論および臨床的意義:犬の褐色細胞腫の診断において、ノルメタネフリン濃度が最も優れた生化学検査であり、尿中ノルメタネフリン濃度は血漿ノルメタネフリン濃度よりも優れていた。

 

【解説(私の意見)】
 尿中ノルメタネフリン濃度は、褐色細胞腫の犬において非常に高値を示した。そして、副腎皮質機能亢進症や、非副腎疾患の犬での上昇はみられず、褐色細胞腫の鑑別検査として非常に優れていることが示唆された。褐色細胞腫の臨床症状は非特異的であることから、臨床症状により褐色細胞腫を疑うことは難しい。よって、副腎に腫瘍が発見された際に、尿中ノルメタネフリン濃度を測定するという使い方が良いだろう。尿中ノルメタネフリン濃度が高値であることを判断するカットオフ値を確定するために、今後より大規模な臨床研究が必要である。